1. 環境ホルモン(Endocrine Disruptor)
2. 男性の精子の数が各国で半減
3. 環境省は約70種をリストアップ
4. カップめん容器からも溶出
5. 環境ホルモンはppt濃度で作用する

DESの悲劇 環境ホルモン問題の前兆

DES(ジエチルスチルベストロール)1940年代から合成の女性ホルモン、切迫早産治療薬として多くの妊婦に投与。
また更年期症、老人性膣炎、不妊症、前立腺癌の治療薬としても用いられる。
男性ホルモン
1970年、DESを与えられた母親から生まれた娘に膣癌の発生が報告され、同様の報告が相次ぐ
1971年、流産防止にDESの使用禁止
1979年、家畜の添加薬としても禁止
胎児期のある特定の時期のみの服用が問題であった。世代を越えた毒性を持つ。
脂溶性環境汚染物質と食物連鎖

環境ホルモン:化学物質によるホルモン異常と性機能障害

環境ホルモンとは、環境中に長く残留して、動物の体内にはいるとホルモンに似た作用をする化学物質の総称で、「内分泌撹乱物質(Endocrine Disruptor)」「ホルモン作用撹乱物質」などともよばれる。環境ホルモンの問題は、今日の物質文明社会の上に新たにうかびあがった巨大な疑問符といえる。

現在、DDTPCBダイオキシンビスフェノールAなどの化学物質が環境ホルモンとして指摘されているが、これらは体内にとりこまれると、女性ホルモンの一種であるエストロゲン様の作用をおよぼす可能性がうたがわれ、「環境エストロゲン」とよばれることもある(文末に【環境ホルモンを知るための本】を紹介)。その他、非イオン界面活性剤の分解で生じるノニルフェノール類やプラスチックの可塑剤として使われているフタル酸エステルも問題となっている。

「沈黙の春」から「奪われし未来」へ 地球環境問題に環境ホルモンという新たな視座をしめしたのは、1996年3月にアメリカで出版されたシーア・コルボーンらによる「奪われし未来」という書物だった。

アメリカでは1962年にレイチェル・カーソンが「沈黙の春」をあらわし、「奇跡の殺虫剤」として農民らに歓迎されていたDDTなどにいちはやく警鐘をならし、同書は環境保護運動のバイブルとなった。「奪われし未来」は、そのカーソンの「名著の志をつぐ書物」としてゴア米副大統領が序文をよせ、鳴り物入りで出版された。

コルボーンは動物学者として、地球上の各地で動物たちにおきている生殖行動や生殖器官の異常に注意をむけた。たとえば米フロリダ州で4番目に大きな淡水湖アポプカ湖に生息するワニは、オスの80%にペニスの極端な萎縮がみられ、血液中のエストロゲン濃度がメスと同じレベルにあり、生殖能力にとぼしいことが1990年代にはいってわかった。

過去にさかのぼって数千編にのぼる論文をしらべると、求愛行動をしないハクトウワシ、メスどうしで巣作りをするセグロカモメ、不妊のミンクなど、生殖異常はすでに1950年代から報告されていた。

オスのメス化、メスのオス化、雌雄同体などを報告した数々の論文は、さながら布の端切れのように山積みにされたままだった。その端切れを、化学物質が動物の体内でエストロゲン様の作用をし、内分泌系を撹乱しているのではないかという仮説によって、1枚の壮大なパッチワークにぬいあげてみせたのがコルボーンだったのである。

男性の精子の数が各国で半減

コルボーンの仮説は医学的に証明されたわけではないが、欧米では近年、生殖機能の減退がヒトにもおよんでいるとの報告があいつぎ、事態は深刻な広がりをみせている。

デンマークの報告によれば、成人男性の1回の射精による精液量は1938年当時の平均3.40ccから90年には2.75ccにへった。同じ間に精子の数は、精液1cc中1億1300万個から6600万個に半減したとされている。

フランスの報告によれば、30歳男性の精子の数は、1945年生まれでは精液1cc中1億200万個だったが、62年生まれでは5100万個と、やはり半減していた。

WHO(世界保健機関)による健康な精液の基準は、「精液の量2cc以上」、「精子の数1cc中2000万個以上」、「精子の生存率75%以上」、「直進運動する精子の比率50%以上」、「奇形のない精子の比率30%以上」で、どれか1つでもしたまわると、不妊の可能性が高くなる。

米国立環境衛生学研究所(NIEHS)がホームページに掲載した論文によれば、1938〜88年のデータを分析した結果、アメリカでも毎年1.5%ずつ精子の減少がつづいている。38年当時、平均的なアメリカ人男性の精子の数が精液1cc中1億個だったとすれば、2050年までにWHO基準の2000万個をしたまわる予測になる。

国内では、帝京大学医学部の押尾茂講師らが、健康なわかい男性34人の精液をしらべている。結果は、WHO基準をみたしていたのは34人中わずかに1人だけだった。

環境省はSpeed98で約70種をリストアップ

人類がつくりだした化学物質は10万種以上にのぼり、毎年1000種もの化学物質が新たに合成されているといわれる。このうち、日本の環境庁が環境ホルモンとしてリストアップしているのは約70種。この70種についても、いくつかの証拠から内分泌撹乱作用の疑いがあるとされているにすぎない。残りの大半の化学物質や、それらの複合的作用にいたってはデータが皆無にひとしく、未知の状況である。

70種の内訳をみると、DDTのようにすでに使用禁止となった化学物質もあるが、過去に生産使用されたDDTは分解されず、いまだに土壌や水系を汚染している。

さらに、プラスチックなどのゴミの焼却過程で生成するダイオキシン、自動車の排気ガスやタバコの煙にふくまれるベンゾピレン、発泡スチロールの原料となるスチレン、ポリカーボネート(プラスチックの一種)の原料となるビスフェノールAなど、今なお生成ないしは合成されている化学物質が多い。

カップめん容器からも溶出

環境保護団体の日本子孫基金の調べでは、市販のカップめん100種類に熱湯をそそいだところ、スチロール製の容器からスチレンが溶出しているのが確認されたという。また、ポリカーボネートは哺乳びん、学校給食や社員食堂の食器、缶詰の内部コーティングなどに広く使用され、加熱によってビスフェノールAがとけだす恐れがある。

環境庁の調べでは、ポリカーボネート容器に95℃の熱湯をそそぎ、30分放置する実験で、ビスフェノールAが検出されたのは、当初、8本中1本だけだったが、洗浄を100回くりかえすと、8本すべてからビスフェノールAが溶出するようになり、最大濃度は180ppb(0.18ppm)にのぼった。

食品衛生法上にさだめられた基準値は「2.5ppm以下」であるため、このポリカーボネートもいまだ規制の対象とはなっていない。

環境ホルモンはppt濃度で作用する

ppmは100万分の1、ppbは10億分の1の濃度をあらわす単位である。化学物質をその急性毒性や発癌(はつがん)性から評価していたこれまでの法的規制は、おもにppmの世界で線引きがなされ、ppb単位の化学物質は安全とみなされ、野放しにされてきた。

しかし、化学物質の内分泌撹乱作用は、ppbの下のppt(1兆分の1)の世界でもおこりうることがしめされている。1pptといえば、50mプールに目薬を1滴たらしたよりもさらに薄い濃度である。

環境中に放出されつづける化学物質は、従来の安全性の常識よりもはるかに低いレベルの濃度で、ヒトをふくむ動物たちの内分泌系をかきみだし、種の絶滅にさえみちびく恐れがある。反面、今日のわれわれの社会は、化学物質文明とよんでもさしつかえないほど、化学物質の恩恵にあずかり、化学物質なしではなりたたなくなっている。この問題の怖さはそこにあるといえよう。

"環境ホルモン:化学物質によるホルモン異常と性機能障害" Microsoft(R) Encarta(R) 98 Encyclopedia. (c) 1993-1997 Microsoft Corporation. All rights reserved.